アメリカン・ビーフに関する安全性 - 生産農家における安全管理医薬品の使用に関する指導および監視

米国では、食品医薬品局(FDA)が、動物用医薬品の使用の指導を行い、食品安全検査局(FSIS)が実態を監視します。家畜が病気にかかった場合、病院に収容され、人間と同じように治療薬が投与されます。また、病気の予防や体調を整えるなどの目的で使われる医薬品もあります。

食品医薬品局(FDA)による指導

動物用医薬品は、FDAによって規制されています。牛の治療に使われる薬としてよく知られているものには、抗生物質や抗菌剤、それに寄生虫駆除剤(内寄生虫用剤)があります。また、肥育や繁殖に使われるホルモン剤も動物用医薬品に含まれます。FDAではこのような動物用医薬品の製造承認にあわせて、各医薬品の適正な使用方法を定めます。これにより、適正な使用方法として、例えば動物の体重あたり何ミリグラム以上投与してはならない、何日以上は続けて投与してはいけない、などが決められます。成長してから使われる薬では、投薬後、一定の期間以内に、食用にと畜することを禁止する「休薬期間」が定められており、食肉に医薬品が残留することを防いでいます。医薬品は、すべて獣医の指示に従って投与されますが、畜産農家も、どのような薬を、どのような理由で、いつ、どれくらいの量を使用したか記録する義務があります。

食品安全検査局(FSIS)の監視

動物用医薬品の食肉への残留実態については、FSISが全米残留検査プログラム(NRP)によるモニタリングや工場内での迅速なテストを行うことで、厳しく監視しています。

トレーサビリティについて

米国では、民間主導型の政府承認検証システムが始まり、家畜疾病の被害を食い止める目的で、トレーサビリティに取り組んでいます。家畜の出生/月齢に関する情報のほか、ワクチンや動物用医薬品の接種状況、移動履歴などを記録することで、家畜疾病が流行した際、罹患した動物と同じ群れにいたことのある牛に、同様の症状が出ていないかを確認することができます。日本では生産者の追跡が主な目的であるトレーサビリティシステムですが、米国では防疫が主な目的となっています。

成長ホルモン使用に関する規定について

成長促進ホルモンは、牛において栄養吸収を促進させ筋肉に変える能力を刺激するために用いられており、牛の耳に埋め込まれたホルモンは微量ずつ放出され、成長を促進し脂肪分の少ない赤肉をつくります。このホルモンには、天然型(エストラジオール、プロゲステロン、テストステロン)と合成型(ゼラノール、トレンボロン、メレンゲステロール)があり、人の健康を脅かすことがないため、残留基準は規定されていません。

Codex(国際食品規格)及びJECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)

17エストラジオール、プロゲステロン、テストステロン、トレンボロン、ゼラノールには、Codex(国際食品規格)で基準が定められています。天然型ホルモン(エストラジオール、プロゲステロン、テストステロン)の基準には、牛及び牛由来の肉に対するMRL(最大残留基準値)が設定されていませんが、これは「適正な飼養管理基準に準拠して成長促進剤として使用された本物質の残留は、人の健康を脅かすことはないと考えられる」ためであります。FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)も、エストラジオール、プロゲステロン、テストステロンの残留による健康への懸念はないことから、これらに対するMRLは設定する必要がないとの見解を示しています。JECFAは、現在もメレンゲステロールの審査中であり、残留濃度に関する結論には達していませんが、現在、メレンゲステロールは、今後の評価対象リストに掲載されています。

日本における成長ホルモン使用に関する基準

成長ホルモン使用に対する日本の基準は、Codexの基準と異なっています。牛の筋肉におけるMRLは酢酸メレンゲストロールが0.03ppm、ゼラノールと酢酸トレンボロンが0.002ppmです。ゼラノールのMRLは脂肪で0.002、腎臓で0.02、肝臓で0.01ppmです。酢酸メレンゲストロールのMRLは、腎臓、肝臓、脂肪で0.03ppmであり、酢酸トレンボロンのMRLは脂肪で0.002、腎臓と肝臓で0.01ppmです。

ホルモン残留による人体への影響

実際に、ホルモン剤を使用して肥育された食肉と、使わずに肥育した食肉に含まれるエストラジオールの含有量を比較したデータがあります。この試験は1995年に、米国のミシガン州立大学で行われたものですが、ホルモン剤を使用していない食肉のエストラジオール濃度は1.3ppb、一方、使用した食肉でも1.9ppbに過ぎませんでした。

また、通常の食品にもエストラジオール(エストロゲン)やエストロゲン様物質を多く含んでいるものがあります。例えば、牛乳などは11ppb、キャベツには2,000ppbも含まれています。もちろん、私たちの体のなかでも産生されています。ですから、肥育にホルモン剤を使ったとしても、肥育用ホルモン剤の残留による人体への影響はまったくない、ということはおわかりいただけると思います。

米国における成長ホルモン使用に関する規定

通常ホルモンは家畜の体内でも生成されており、年齢や性別、妊娠の有無なにより数値が異なることがわかっています。人間も同様で、摂取する野菜などの食品にも含まれている場合もあります。従って食肉中への残留値を設定しても食べる人の状況により、体内総量が大きく変わってくることになります。

米国では、食肉中への残留値を設定しても食べる人の状況により、体内総量が大きく変わってくることから、人の一日の摂取許容量も考慮しながら、食肉を摂取することによる人体への追加残留増加を可能な限り押さえることを前提として、食肉の残留基準設定は家畜への投薬段階で管理する方法が主に取られています。

ゼラノール
21CFR556.760

  • 一日摂取許容量(ADI) = 1.25μg/kg 体重/日
  • 食用組織における残留許容量
    • 牛 - 残留許容基準を定める必要はない
    • 羊 - 20 ppb

トレンボロン
21CFR556.739

  • 一日摂取許容量(ADI) = 0.4 μg/kg体重/日
  • 残留許容量 - 牛の未調理の食用組織における全トレンボロン残留許容基準を定める必要はない

プロピオン酸テストステロン
21CFR556.710

  • プロピオン酸テストステロンの投与により生じるテストステロンは、無処置牛で自然に存在するテストステロン濃度に加えて次の量を超えて残留してはならない
    • 未経産牛の未調理の食用組織において
      • 筋肉中0.64 ppb
      • 脂肪中2.6 ppb
      • 腎臓中1.9 ppb
      • 肝臓中1.3 ppb

プロゲステロン
21CFR556.540

  • 無処置牛で自然に存在するプロゲステロン濃度に加えて次の量を超えて残留してはならない
    • 去勢牛および子牛の未調理の食用組織において
      • 筋肉中3 ppb
      • 脂肪中12 ppb
      • 腎臓中9 ppb
      • 肝臓中6 ppb
    • 羊の未調理の食用組織において
      • 筋肉中3 ppb
      • 脂肪、腎臓、および肝臓中15 ppb

メレンゲステロール
21CFR556.380

  • 親化合物、メレンゲステロールアセテートの残留許容量は牛の脂肪中で25 ppbが確立している

エストラジオールおよび関連エステル
21CFR556.240

  • エストラジオールまたは関連エステルの投与で生じたエストラジオールは、無処置牛に自然に存在するエストラジオールの濃度に加えて次に示す量を超えて残留してはならない
    • 未経産牛、去勢牛、および子牛の未調理の食用組織において
      • 筋肉中120 ppt
      • 脂肪中480 ppt
      • 腎臓中360 ppt
      • 肝臓中240 ppt

農薬に関する規制と残留農薬対策

農薬は、「連邦殺虫剤・殺菌剤・殺鼠剤法(FIFRA)」と「連邦食品・医薬品・化粧品法(FFDCA)」という2つの法律により、規制されています。
FIFRAは、農薬の登録や適正な使用方法に対する規則を定め、FFDCAは、食肉や飼料作物への残留基準の設定に関する規則を定めます。

飼料作物の栽培には、殺虫剤や除草剤などの農薬が使用されることがあります。また綿実のように、本来は食用でないものが家畜用の飼料として用いられることもあります。米国では、家畜が飼料作物に残留した農薬による汚染を受けないように、飼料(および飼料に使われる可能性のある)作物に使用できる農薬を限定し、かつ適正な使用方法と収穫物への残留基準を設定し、家畜への農薬の移行を制限しています。このような、農薬の登録や残留基準の設定は、すべてEPAが行い、「連邦殺虫剤・殺菌剤・殺鼠剤法(FIFRA)」に基づいて、飼料作物栽培農家を厳しく監視・指導しています。

飼料作物に使用が承認されている農薬は、40CFRのパート180に収載されています(Pesticides in animal feed)。2002年7月1日現在、51を超える農薬の使用が承認され、農薬ごとに、使用対象作物と残留基準が設定されています。

収穫された飼料作物に対しては、FDAが毎年、モニタリングを行い、農薬の残留実態を調査しています。

食肉への農薬残留基準

米国では、家畜が飼料作物に残留した農薬による汚染を受けないように、飼料作物に残留農薬基準を設けるとともに、食肉に対しても残留農薬基準を定め、監視を行っています。

食肉への残留農薬基準は、飼料作物への使用が承認されている51農薬以外にも、大豆やトウモロコシなど人の食物と同じものが使用されている実態や、家畜の飲料水や土壌等の環境からの農薬汚染等を考慮して、数多くの農薬に対して設定されています。

食肉に対する残留農薬基準の設定は、「連邦食品・医薬品・化粧品法(FFDCA)」に基づいてEPAが行います。実際の残留検査は、主にFSISが「連邦食肉検査法(FMIA:Federal Meat Inspection Act)」によるNRP(National Residue Program:全国残留検査プログラム)にのっとって行いますが、FDAも、FFDCAに基づき独自にモニタリング検査を行っています。なお、FDAは、米国産食肉については特に検査は行っていませんが、輸入食肉に対しては毎年モニタリングを行っています。